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Posted by 京つう運営事務局 at

2009年08月05日

いもねぎ(その2)

わびすけという定食屋は、烏丸今出川にある。道路を挟んだ向かい側には同志社大学があり、学生や教職員もよく利用する店だ。

世間の昼飯時から少し遅れた午後2時に、僕とカクさんは本物のいもねぎを確認しに行った。
「久しぶりだなぁ。お、相変わらず金魚がいるよ」
店の中央にある鉢を見ながらカクさんがはしゃいだ。
いもねぎ定食を2人前注文する。

「ここのコーヒーって結構うまいんだよ」
「そうですよね。ホットなら飲んだことあります」
僕はいもねぎを食べるよりも、コーヒーを飲むためにわびすけを利用した回数の方が多い。

あまり待つことなく、定食が出てきた。



「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも沈黙した。
「やっぱ、お前が作ったのとだいぶ違うな」
「ええ、全然違いますね」
僕のはぐちゃぐちゃだった。本物はこんなに美しく作られていたのか。比較したらよく分かる。
(右の写真が我流のいもねぎ)

  
 

「肉って真ん中にあったんだ・・・」
そうしみじみ言われると、ほんのちょっとだが、自分が恥ずかしい失敗をしたような気持にさせられた。
「多分これフライパンひとつだけだと、うまくできないんですよ。うち、コンロ1個しかないんで・・・」
と変な言い訳が勝手に口から出た。いつかこんな風に作ってみたいものだ。

店の人が醤油とソースを持って来てくれた。
「昔ケチャップを出してくれたことがあったんだよな」
「そうなんですか?」
「うん。少しつけてみたら、えらいウェスタンな味がしてさ。いもねぎっていうよりも、何かファミレスのメニューを食ってる気分になった」

へえ、くらいしか言うことがなかった。
醤油とソースをそれぞれ使ってみて、いもねぎにかけるなら絶対醤油だと思った。別にケチャップをかけたいとは思わなかった。

「お前さ、ここのチューハイ飲んだことある?」
メニューを見ながらカクさんが聞いた。
「ありますよ。結構濃いめです」

そう言いながら、僕はあることを思い出していた。

前に、友達と一緒に昼から飲む計画を立てた。日曜日の12時に地下鉄今出川駅前で集合して、適当に店を選んで入り、酒一杯とアテ一品を頼んで、飲み終わったらまた次に行くというほろ酔いツアーだった。

当日、定休日なのになぜか営業していたわびすけに入り、僕はビールといもねぎを、友達はレモンチューハイといもねぎを注文して乾杯した。店の人は昼間から飲んでいる男二人を見て、少し呆れたような顔をしていた。

準備運動のつもりでチューハイを一口飲んだ友達が「うわっ、これキツっ」と言い、顔をしかめた。そんなに酒に対して弱くないが、特に強くもないヤツである。僕もどれどれと一口飲んで、確かに昼の一杯めにしてはきつ過ぎるなと思った。

結局、その友達はスタートから飛ばし過ぎたこともあり、ずいぶんと早くリタイアしてしまった。そして僕は残りの時間を、一人寂しく飲み歩いたのである。

「何だか楽しそうなことやってんな。どこ巡ったの?」

「わびすけの次は、今出川室町にある<おもの里>で酒と馬刺。その後地下鉄で丸太町に行って、夷川にある<グリル・デミ>でハンバーグをつまみにワインとか飲んで。少し休憩して、裏寺町にある<たつみ>に行ったんすけど、3時なのに混んでたんですよ。だから木屋町四条まで歩いてONZE11っていう店で飲んで、そこで友達は眠くなってリタイアです。そっから一人で木屋町三条の<一休>でホルモン串をアテに焼酎飲んで、その後は蛸薬師の<福市>で焼酎と魚。店を出てふらふらと五条まで歩いてアジェって焼肉屋の向かいにあるKAOってシェリーバーで飲んでました。そこで打ち止めです。KAOでつい寝ちゃったんですけど、店員さんが知り合いなんで店閉めるまで寝させてくれたんですよ」

「7軒か。まあまあだな」
「そうですね。10軒行きたかったんですけどね」

一回そういうのを平日にやってみてーなぁ、とカクさんは呟いた。





  


Posted by Tamo at 23:52Comments(0)酒と肴

2009年08月04日

いもねぎ(その1)

先輩のカクさんに「お前んちで飲もう」と言われて、そういう運びとあいなった。
「俺が酒持ってくから、テキトーにつまみ作ってくれ」
てなわけで、テキトーに作ることにした。
材料が安くて、簡単にできて、ボリュームがあって、酒の肴的で、味も悪くないものって、なーんだ?

そんな問いかけから導かれる答えは、ジャガイモ、玉ネギ、ひき肉、卵なんかを使用するアテである。僕はずいぶん前に食べた、今出川にある<わびすけ>という定食屋の看板メニューである<いもねぎ>を、記憶を頼りに再現することにした。

スーパーで買い物をして帰り、ごそごそと支度をしていたら、カクさんが到着した。

「早かったっすね。いもねぎ作ろうかなって」
「いいね。いもねぎって、久々に聞いたわ。でかい玉ネギだな」
「淡路産です」
「淡路産かぁ・・・。淡路産は目にしみるんだよな・・・」
「いや、どこの玉ネギもそうですよ」
「淡路のは特にそうなんだよ」

別に自分で作るわけじゃないクセに、文句の多い人だ。
カクさんがビールとかを冷蔵庫に入れている間、僕は材料の野菜を薄めに切って、先にミンチが焼かれているフライパンに投入した。自分なりのちょっとした工夫として、カレーパウダーを使ってみることにする。これならビールにも焼酎にも合うだろう。

材料を卵でとじて、出来上がり。

「お待たせです」
寝転がってマンガを読んでいたカクさんは「うぉう」と獣のような声をあげて、料理を見た。


「いもねぎ?」
「いもねぎです」
「・・・・・・こんなんだっけ?]
「こんなんっすよ。カレーパウダーで味を少し変えてますけど」
「・・・・・・・・・・・・。まあいっか。飲むべ食うべ」

さっきの長い沈黙、なに?

「記憶を頼りに作ったんでよく分からないんですけど、こんなんだったと思いますよ?まあ、確かに不細工ですけどね」

「うん。俺も実際のいもねぎがどんなんだったか、よく思い出せないんだよなー。わびすけに行ったの、かなり前だしな。・・・・・・うん、味はイケる」



「カレー入れたら、たいていの食い物はうまくなりますよね」
「そういうもんだよな」
カクさんが玉ネギをつまみながら言う。
「なあ知ってたか。いもねぎってのは、元々晩酌のアテとして作られたらしい」
「そうなんですか?」
「さあ。俺も人から聞いたから本当かどうかは知らんけど、そういう噂」

カクさんの話には、こういう信じていいのかどうか分からない小ネタが多い。

「まあ、経済的な食いもんだよな。おかずにするもよし、酒の肴にするもよし。元々はこういうジャンクな形状だったんじゃねえか?」

しかし、飲みながら会話をしているうちに実際のいもねぎがどうだったかという議論になった。
「もっと丸かったっけ?」
「ですね。玉ネギとかの野菜も、こんなにたくさんは使ってなかったような・・・」
「ジャガイモはこんなに細くないよな」
「ええ。ジャガイモは火を通しやすくするために小さく切りました」
気になって気になってしょうがなくなった二人は、結局次の日にわびすけに行って、ホンモノを確認することにした。



  


Posted by Tamo at 18:12Comments(0)酒と肴

2009年08月03日

ゆるいラーメン屋台

四条某所で営業しているラーメン屋台がある。

火曜日から土曜日の深夜零時半頃に、白い軽トラがふらっとそこにやって来る。本当にふらっと。そして大将は駐車スペースを見つけていつの間にかそこにおさまると、車からおりて黙々と提灯とテーブルと椅子を出して商売の準備を整える。

名前はない。営業時間も実は決まっていない。商売っ気もあまりない。大将は夏と冬はひたすら長い休みを取る。どんなに遅く来ても、仕事をするのは4時まで。なるべく早くおうちに帰りたいらしい。

ある時、忘れられない会話を交わした。
立ち飲み居酒屋で一杯ひっかけて帰る途中、ラーメンが食べたくなった僕は、大将の携帯に電話をした。時刻は2時過ぎ。いつもなら余裕で営業している時間だった。

「はいっ、ラーメン屋です」

いつもこんな調子で出る。屋号がないのでラーメン屋と名乗るのだ。

「あ、すみません。今から行きたいんですけど、今日は何時まで?」

以前聞いた時は、一応の営業時間は朝の4時までだと言っていた。
しかし――。

「あぁ~、あのですね、今日はお客さんがあまりおらんもんですから、もう片付けて帰る所でした」

「そうなんですか?残念だなぁ」

「あのぉ、何でしたら待ってましょうか?」

一瞬、いい所あるじゃないって思った。

「ホントですか。ああ、でも、ご面倒でしたらいいですよ」

こういうのは、日本語の礼儀として言っておくものである。

「ああ・・・そうですか・・・。・・・・・・。ええと、じゃあ今日は閉めますわ」

え?
メンドーなの?

いや、でも「らしい」。らし過ぎるぞ大将。
フラれてしまった僕は、少し落ち込みながら三条のみよしに行った。嘘が人を傷つけることはよく知られているが、正直さもまた、人を傷つける時があることを知った夜だった。

大将はそんなカンジだ。一言でいえば、ゆるいキャラなのだ。
無愛想ではないが、表情豊かなタイプでもない。普通に客の話に合わせて相槌を打ち、普通に笑って、普通に気温の話をする。彼は寒いのがニガテだ。


一人でゆっくり作るので、あまり大勢で来られると実は困っているのが分かる。表情はあまり変わらないが、常連の目には明らかだ。彼が一杯のラーメンを作る時間は、そんなに早くない(でも最近は前より少し早くなった)。もう4~5年ほどやっているので、もう少し頑張ってほしいと思う反面、「いや、それでこそ大将だ。いつまでもそのままでいてくれ」とエールなんぞを送っている自分がいる。まったくフクザツな気分にしてくれる人だ。そんな屋台に、僕は大将のキャリアとほぼ同じ時間通い続けている。



ラーメンにはチャーシュー、ネギ、もやし、メンマ、そしてナルトが入っている。古き良き中華そばといった趣で、味はあっさりしている。不思議な味だ。以前スープに使っているものを聞いたら、野菜、昆布、豚骨、鶏ガラなど、色々なものを使っていると言っていた。僕は常連なのに、今だにこのラーメンを「~ラーメン」と一言で表せないでいる。豚骨ラーメンならもっと豚骨ラーメンらしく、鶏ガラ醤油ならもっと鶏ガラ醤油らしくすればいいのにって思う。

昔は一杯500円だった。ワンコインで食べることができたのだ。ところが今は600円である。チャーシューメンは700円から800円に値上げした。けど昔から、大盛りにしても料金は変わらないところが嬉しい。




僕はいつもチャーシューメンを食べている。「うりゃっ、これでもか」と主張するくらいにドンブリを覆う豚ちゃんたちを見て、客は喜んだり嘆いたりする。

「ええなぁ、大将。これくらいやらんとな」とか「あかんわオッチャン、これ多すぎるわ。もっと少のうせい」とか、色んな反応がある。はっきり言って後者のコメントには迷惑している。胃袋に自信がなけりゃ、普通のラーメンを頼めばいいのに。

でもそんな客が多かったのだろう。ある日、大将がこんなことを言い出した。

「チャーシュー、薄くしようと思うんです・・・お客さんから言われて・・・」

じゃあ、僕はどうなるんだ?って思った。僕は薄くしろだなんて思っていない。むしろもっと分厚くても大歓迎だ。たまにしか来ない上に自分の胃のキャパをしらない客か、昔からひいきにしている常連の僕か、どっちを取るんだ?と詰め寄りたかった。生まれて初めてそんな気持になった。

そんな僕の心中を察してか、「あの・・・薄い分多めに入れとくんで」と大将は言った。出て来たラーメンを見て僕は感動した。控えめに言って、豪華だった。デラックス・チャーシューメンと名づけた。薄いチャーシューは食べやすくて、おいしかった。<おいしい厚さ>は確かに存在するらしい。




でも、いつの間にかチャーシューは元の枚数になった。
薄くしたまま。
やってくれるじゃねえか大将・・・って思った。ゆるいキャラなのに、意外としたたかだ。

でも憎めない人である。それなりに気も遣ってサービスしてくれるし、おいしいものを作ってくれる。何よりもここのラーメンは、僕にとって京都の思い出の味なのだ。


  


Posted by Tamo at 23:20Comments(0)ラーメン