少年と犬
京都の大通りのひとつ、堀川通り沿いに大きな溝があった。しばらく工事をしていたのだが、そこにいつの間にか歩行者専用の道ができている。
車はもちろん、自転車も禁止。犬はOK。だから散歩をしている人や、犬連れの人が利用している。ベンチも設置されていて、一休みできる。
休憩していると目の前を姉弟らしい子供が横切った。弟はしきりに後ろを気にしている。
何だろう、と見てみると、女性が柴犬を散歩させていた。
どうも弟くんは犬が苦手なようで、後ろのご一行を先に歩かせようという魂胆らしかった。
怖くないよ、と姉がいうけど、弟は「いやや」という。二人は一方の端で犬をやりすごそうとしている。僕は反対側の端のベンチで見守る。
女性と犬が来る。四本足の軽快な足取り、好奇心剥き出しの首ふり、小柄な体、しゅっとした口。
ペスという名前が似合うので、勝手にそう呼ぶことにした。
ペスは姉弟の前で止まった。弟くんはびくついている。
「バウ」とペスが吠える。
「うぉ」と少年がいう。
「これこれ」と飼い主の女性が柴犬をたしなめる。
一人と一匹のつれあいは、そのまま去っていった。
弟くんは「目を合わせたからや」と小さな反省をしていた。
僕は犬の脳天気な尻を見て、「ペスのくせに」と思った。
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