グリルデミの裏メニュー

Tamo

2009年08月07日 02:00

グリルデミは夷川通りにある洋食屋である。地下鉄丸太町駅の6番出口から歩いてすぐに行ける。

同店はハンバーグとデミグラスソースが人気のメニュー・・・と世間では通っているらしいが、それはあくまでも表向きの話。裏では他にも色々なメニューを手広く提供している。

例えば試しに「秀吉定食」と注文してみると、ひょうたん型のけったいな重箱が「へい、おまち」の掛け声とともに出てくる。



ひょうたんはその昔、豊臣秀吉の馬印だった。
しかし、よくこんな形の重箱を見つけたな・・・。
中身は秘密である。

マスターの井本順久氏には<いもいも>とか、<よりさん>とか、<ヨリエモン>とか、とにかく色々なアダ名があって、どう呼ばれても「はいよ」とええ感じの返事をする。そんな彼は自称、<織田信長研究家>だ。今はどうか知らないけど、少なくとも昔は名刺の肩書にそう書いてあった。

にも関わらず、近頃は秀吉に浮気している。
ってことだろう?この明らかな物証は・・・。




それはさて置き、ハンバーグとデミグラスソースをうりにしているこの店は、実は以前とびっきりうまいカレーライスも出していた。あまりにもおいしくて、僕は1日に2回も食べたことがあるほどだ。昼と夜の2連チャンである。

そんな風にひいきにしていたメニューなのに、ある日カレーはグリルデミのメニューからひっそりと消え去った。僕はヨリエモンに問うた。

「ねえ、カレーは?」
すると彼は「リストラした」と言った。
「何でそんなことすんだよー」
すると彼は「手間かけた割に、全然出ないんだもん」と言った。
「僕はしょっちゅう食べてるよ?」
すると彼は「うん。君と、もう一人だけ京都大学の院生が注文してくれてたんだけど、2人だけしか食べてくれないもんだからさ・・・。あれ仕込みに4時間もかかるんだよ」
「もうスタメンには戻らないの?」
すると彼は「もう戻らない」とボソッと言った。

かなり落ち込んだ。あんなにおいしいカレーをかくも簡単にリストラするなんて・・・。
「簡単にはリストラしてないよ。やつには3年間チャンスを与えたんだ。なのに結果を出さなかったから、仕方ないべ」

そんな大人の話なんか聞きたくない。
いや、自分もいい大人だけど、それでも聞きたくない。
僕はあがいた。

「ねえ、数日前から注文して500円多めに払ったら食べさせてくれる?」
「え、そこまでして食べたいの?なら似たようなやつ作ってあげるよ」
「似たようなやつ?ニセカレーかよ」
「ニセっていうか・・・カレーもどき。近い味は出せるよ」

そんな会話をしてだいたい1週間が経過した。最初は「もどきかぁ」と思っていた僕だが、その存在が空想の中でどんどん大きくなるのを止めることができなくなり、ついに負けた。
僕はヨリエモンにメールをした。
「もどき、食わして」
するとすぐに「了解」って返事が来たので、僕はグリルデミに向かった。

閉店30分前に着いた。
「今日は忙しかったよ」とヨリエモンが言った。
忙しいのはいいことだ。

思ったよりすぐにカレーもどきが出てきた。

いや、もどきすごいよ。卵もオプションでついてきた。
一口食べる。
あ、おいしい。確かにコクは劣るかもしれないけど、すごくおいしい。
「それでも40分は煮込んでる」
もどきでも、それなりに手間がかかってるんだ。素晴らしい。

そこそこ量があったのに、味が良かったのであっという間に完食してしまった。表メニューもおいしいけど、裏メニューもおいしい。

裏メニューといえば、気になる話を聞いた。もう一人のカレーの客だった京都大学の院生がこの前やって来て、開店以来の常連である僕ですら聞いたこともない料理を食べて帰ったそうだ。


「何作ったの?」
「豚骨ラーメン風ハンバーグ」
なにそれ・・・?
「おいしそうに食べてた?」
「いや、ノーコメントだった」
「実験メニュー?」
「こら、人聞きの悪いことを言うんじゃありません」

でも、グリルデミはたまに実験的メニューを試作しては、モニター(?)に食べさせて反応をリサーチしているのである。僕も以前、同店の<ホルモン・ハンバーグ>という、おそらくハンバーグ史上最強の歯ごたえを誇る一品を賞味した経験がある。これはたった一度だけしか客に出されなかった幻のメニューだ。

「やっぱホルモンは素人が手を出したらダメなんだよ」とヨリエモンはしみじみ言った。

そんな料理人の反省よりも、僕は豚骨ラーメン風ハンバーグが気になってしょうがなかった。いつか作ってもらおう。






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