京つう

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2009年10月02日

激辛マックス卵抜き

その夜、男の目は下鴨本通り沿いにあるひとつのバーを見据えていた。
バーというより、正確にはスコティッシュパブである。京都においてその名を轟かせるアンティシェンエに、実に個人的な任務を自らに課した男が入ろうとしていた。

作戦名ミッドナイト・スパイスと己の行動に適当な名をつけ、男はカウンター席に座った。

「何にしますか」というマスターの問いに、男は静かに答えた。

「ドライカレー」
「辛さは」
何年も前に約束されていたかのように、マスターが聞く。
男は間違えないよう、慎重に応じた。
「激辛マックス卵抜き」
一瞬の沈黙の後、「呪文をいってしまいましたね」とマスターがニヤリと笑った。

激辛マックス卵抜き。
アンティシェンエの超辛い物好きな常連さんがテイクアウトでオーダーするという一品である。この話を聞いた時、僕はそれよりも辛さが控えめのドライカレーを食べていたのだが(これもそれなりに辛かった)、そんなに辛いやつがあるのかと気になって仕方がなかった。

残念ながらドライカレーの写真はない。ただ、見た目は普通のドライカレーに鷹の爪が入っているだけといった感じだった。見た目に問題はない。むしろ、ありふれていて無害に見える。

問題は香りだ。
色々なスパイスをブレンドしたそれは、強烈な異国的芳香を漂わせている。辛いもの好きにはたまらないが、苦手ならそれは強力な武器となり、たちまちその人をKOするであろう。
「勝負ですね」と言いながらマスターがこちらをうかがった。

そう、勝負だ。
サムライは背を向けない。

激辛マックス卵抜き一口食べる。

ンガッ!辛っ!!!!
写真はその時の心境を翌日である今日、後輩の泉(オス、メガネ、アニメ好き)に描かせたものである。たいていの辛さにはびくともしないこの僕が、すぐに認めてしまった。少しずつ汗が流れてきた。やがてそれは滝のようになっていく。

「なんなら、卵入れよか」とマスターが気遣ってくれたが、「いや、今日は勝負に来たので、あえて卵抜きで行きます」と返事をした。

一口、また一口、カレーは順調に減っていく。それに比例して汗の量が増え、口の中の感覚が鈍くなった。
「目がうつろですよ・・・」と隣の人に言われた。
そ、そんな心配はご無用。


どうにか半分まできた。マスターが醤油を少しだけ入れると甘味が出て、辛さが若干マイルドになると教えてくれたのでその通りにしてみると、あらホント。しかし、醤油作戦は少量だけで、再び勝負に戻った。ドライカレーを相手に命の取り合いをする。

半分ほど食べ終えたところで、近くの席にいる常連さんが「よければどうぞ」とお土産のお寿司を分けてくれた。

かたじけない。普通の米のありがたさ。
「今、砂漠でオアシスを見つけた気分でしょ」とマスターが人の気持ちを見透かしていうので、「もうお地蔵さんに見えます」とつい本音が出てしまった。

3分の2を食べ終える頃には、カレーはだいぶ冷めていたのだが、それでもフーフーしてしまう。口の感覚が熱いものを食べた時のようになっているので、ついそうしてしまうのだ。

しかし、僕はこの激辛ドライカレーを食破し、なんとか戦いに勝利した。
以前、アンティシェンエのドライカレーにおける最高度の辛さを食べた記録ホルダーは同店のメガネをかけた店員さんだという話を聞いた。「彼が食べたのに匹敵する辛さですよ」とマスターがいうので、「やった!」とガッツポーズを取ってしまった。
その店員さんが「@*#(スパイスの名前)入れた?」と聞くとマスターが「入れた入れた」と答えた。店員さんは「おー」と言っていたが、よほど辛いスパイスなのだろうか。

「ごちそうさまでしたー」と店を出る僕に、マスターが「お疲れ様でしたー」と声をかけてくれた。
「ここから帰るお客さんにお疲れ様でしたなんて、俺初めていうたわ」
僕も初めて言われた。

とにかく、ひとつの大きな戦いを終えた満足感を僕は味わっていた。
でも、夜中に食べるものじゃないな、コレ。



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Posted by Tamo at 22:16│Comments(0)グルメ
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