京つう

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2009年09月15日

夢か幻か


夢か幻か京都の有名ラーメンチェーンである天下一品。
その天一について、とても奇妙な思い出がある。僕の中で「幻の天一事件」という名前までついている出来事だ。

10年近く前、京都に来てまだ間もない頃の話。当時、市営地下鉄を乗るのもおっかなびっくりだった僕と友達のAは、間違えて降りるつもりのない駅で下車してしまった。

それに気付かずに地上に出た僕らは「何か風景が違う気がするなぁ」と思いながらも、歩いていた。
歩けども歩けども、ますます見知らぬ街並みが目の前に広がっていく。だんだん腹も減ってきた。
「間違えたかな」
「間違えたかもな・・・」
そんな会話をしながら進んでいると、目の前に僕の心をときめかす看板があった。
天下一品だった。


「腹減ったなぁ。ここでちょっと飯食わんか?」
後に、実はAは天一が苦手だと知ったのだが(一度食べてコッテリ過ぎると思ったらしい)、「まあええよ」と返事をした。僕らは妙に照明が赤いその店に入った。

席について僕は大のコッテリを、Aは並のコッテリをそれぞれ注文した。
他に客はおらず、従業員は店長と思しき男性一人だった。

しばらく待っていると、テーブルにドンブリが2つ置かれ、そしてもうひとつ何かが置かれた。
僕は少し驚いた。
それはザルいっぱいの青ネギだったのである。
かなりテンションが上がった。というのも僕は当時、天下一品をネギだくで食べたいと強く思っていたからである。しかし、いつもネギ多めを注文するものの「そんなに多くないなあ」というのが毎回の正直な感想だった。

そんな中で、こんな素敵な天下一品の店舗があるのかと舞い上がるほど嬉しくなった。
Aは少しだけネギを入れると、「後はええぞ」と残りを僕にくれたので、僕はドンブリをネギであふれさせ、念願のネギだく天一を幸せな気持ちになりながら食べた。

会計を済ませ、外に出た。
「ネギくせー」とAに言われた。
僕はこの天一に是非また来たいものだと思っていたが、当時は近鉄沿線のちょっと遠い所の住民だったので、「次回はけっこう先になりそうだな」と残念に感じていた。

それからしばらくして、またその辺に行く用事があったので僕は一人でその天下一品のあった場所に行ってみた。

ところが、である。
いくら探してもそのネギ天一は見つからなかった。
数年後、比較的その場所に近い部屋に引っ越した時も、自転車でうろうろと探してみた。
天下一品の店舗はいくつかあったが、それでもあの妙に照明が赤い天一は見つからなかったのである。

先輩のカクさんにこの話をすると、「場所間違えたんだろ」という返事が返ってきた。
「そうかもしれませんけど・・・」
「それか、天一じゃなくて横綱だったんじゃねえか?あそこネギ入れ放題だしな」
「ありえないです。あの特徴的なコッテリスープと横綱のスープを間違えるわけないじゃないですか」
「まあ、そうだよなあ・・・」
と言った後、カクさんは「まるでマヨイガだな」と呟いた。
「まよいが?」
「うん。民俗学の研究で収集されたフォークロアのひとつでな。山とかで迷った旅人が歩いていたら、立派な屋敷が建っているんだ。中に入ったら、ちゃんと手入れが行き届いていて、家畜はいるし、火鉢には火が灯っているし、食卓には立派な食器が並んでいる・・・まあそんな状態。けど、どれだけ家人を探しても誰もいないんだ。で、旅人はしばらく休憩して出て行って、後日その屋敷を探そうとしても二度と見つからないと。まあ、そんな伝承だ」

後からWikipediaで調べてみたら、旅人はそこから食器を持ち帰り、それで米を測ると米が尽きず、大金持ちになったという。話は迷った人間がマヨイガに辿りつき、屋敷は無人で、訪問者はそこから何かを持ち帰り、後に金持ちになるというパターンになっているそうだ。そして二度とそこには行けない。

確かに僕は迷子になっていて、後で探してもその天一は見つからなかったが、店は無人ではなかったし、僕は何も店から持ち帰っていない。そして10年近く経った今、正直貧しい。

これには、ちょっとした後日談がある。
Aと一緒にその店に行ってから5~6年経ったある日、久しぶりに会った彼に「あの時の天一はすごかったよな~」という話をした。そうしたらAはこう言ったのだ。

「そんなことあったっけ?」

Aが忘れているだけなのか、それとも全ては僕の夢だったのか。未だに説明がつかない思い出である。





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